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大阪地方裁判所 昭和47年(わ)1536号 判決 1972年7月10日

被告人 藤原重夫

昭二一・一一・二八生 大工

主文

被告人を罰金一万五、〇〇〇円に処する。

未決勾留日数中、その一日を金五〇〇円に換算して右罰金額に満つるまでの分を、その刑に算入する。

本件公訴事実中有印公文書偽造の点については、被告人は無罪。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は公安委員会の運転免許を受けないで、昭和四七年五月二日午後七時五分頃大阪府寝屋川市大字太間四一〇番地先道路において、普通乗用自動車(神戸五五ひ九七・八〇号)を運転したものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

被告人の判示所為は道路交通法六四条に違反し、同法一一八条一項一号に該当するので、所定刑中罰金刑を選択し、その所定金額の範囲内で被告人を罰金一万五、〇〇〇円に処し、刑法二一条を適用して、未決勾留日数中その一日を金五〇〇円に換算して右罰金額に満つるまでの分を、その刑に算入することとし、訴訟費用については刑事訴訟法一八一条一項但書により被告人に負担させないこととする。

(一部無罪の理由)

本件公訴事実中有印公文書偽造の点は、

被告人は、昭和四七年一月九日ごろ、兵庫県尼崎市水堂浜浦町九四五番地若葉荘二階一一号室の自室において、行使の目的をもつて、ほしいままに、かねて入手していた昭和四五年六月二二日付兵庫県公安委員会発行にかかる、同委員会の記名押印がある赤松大嗣の第一種普通自動車運転免許証の写真欄に貼付された右赤松の写真を剥がしたうえ、同欄に自己の写真を貼りつけ、さらに、氏名、生年月日、本籍、住所欄に「藤原重夫、昭和二一年一一月二八日、兵庫県三原郡南淡町稲田南六四五、同上」とタイプライターで横書きに印刷された紙片を貼付し、あたかも自己が交付を受けた運転免許証のような形式を整え、もつて、右公安委員会作成名義の自動車運転免許証一通を偽造したものである。

というのである。

ところで、(証拠略)によれば、右公訴事実中「行使の目的」の有無の点をひとまず除くならば、右事実はすべて容易にこれを認めることができる。そして、(証拠略)によると、右自動車運転免許証を偽造した後、被告人はときどきこれを持ち歩いていたことがあり、昭和四七年五月二日、判示無免許運転の際にもこれを自己のズボン右後ポケットに入れて携帯していたばかりでなく、当日、判示普通乗用自動車を借りる際には、株式会社加門組の大工成迫早人の妻成迫タミに対し右偽造の自動車運転免許証を示し、自己がその資格を有するもののように見せかけて同女を安心させ、その結果同会社より右自動車を借り出した事実を認めることができるから、これより前の同年一月九日頃右免許証偽造の当時において、行使の目的で偽造したものであろうと推測し得る節がないではない。

しかし、(証拠略)によれば、被告人は、「偽造した運転免許証を警察官に見せるつもりはなかつた。」旨繰り返し供述していること、そして被告人が判示無免許運転の現行犯人として逮捕される直前に自動車検問を受けた際にも偽造の運転免許証を警察官に提示することはせず、警察官に対し無免許の事実を即座に認めたのであり、右逮捕の約二時間後に留置場に入れられる際所持品検査を受け、初めて警察官に右運転免許証を見つけられ、提出していることが認められること、また被告人は、「大阪へ出て来てからは車には手をかけたらあかんと思つてみな断つてきました。」旨供述していること、および被告人は昭和四七年一月に運転免許証の偽造をしてから判示の無免許運転の罪を犯した同年五月二日の前日までは、自動車の運転をさし控えていたことが窺われること、被告人は運転免許証の写真を貼りかえるだけでなく、警察官に提示するためには不必要と考えられる氏名等の欄の記載について自己のそれに変えて、偽造していると認められることを総合して判断すれば、右偽造の運転免許証をときどき持ち歩いていたことがあり、判示無免許運転当日これを携帯していたとはいえ、運転免許証偽造の当時、これを警察官に提示する目的があつたと推論することは困難であり、また右の目的をもつていない場合、単に自動車を借りるためにのみ使用する目的で偽造するということは比較的考え難いことから判断すると、右偽造の当時、被告人が自動車を借りるために使用する目的を有していたものと認定することもまた困難である。

次に、被告人の司法警察員に対する昭和四七年五月四日付供述調書中に、被告人が運転免許証を偽造したのは、免許証がなければ自動車運転はできないので、偽造した運転免許証を使用するため作つた旨の供述記載があるが、右供述記載中の「使用するため」の意味が、被告人が自動車を運転する際に偽造した運転免許証を携帯する目的を意味するにとどまるものか、それともそれにとどまらず警察官から運転免許証の提示を求められた場合に提示する目的も含めて意味しているのか、必ずしも明らかではなく、前段に認定したとおりの諸事情のほか、中学時代の学業成績が劣位にあり、自動車運転免許の試験を数回受験しながらいわゆる構造で不合格になつていることなどから見て、被告人の智能程度がかなり低いと認められる点をも加味して考えると、右供述記載から偽造の運転免許証を警察官に提示することもあり得るとまで考えていたと認めることも無理である。

むしろ、(証拠略)によれば、被告人は自動車運転免許の試験を数回受験したけれどもいずれも不合格になつていたので、友人等周囲の者から嫌味を言われたり馬鹿にされていたために、自己も運転免許証を持つているということを友人等に誇示したかつたこと、そのために被告人は自己が拾得した赤松大嗣名義の運転免許証を偽造しようと思い立ち、前記運転免許証を偽造したものであつて、結局被告人が本件運転免許証を偽造した目的は自己の虚栄心を満足させるため、これを持つているということを友人等周囲の者に誇示することにあつたものと認めざるを得ない。

ところで、右のような意図で運転免許証を友人等に示す場合においては、右の友人等は当該運転免許証について別段何らの利害関係を有するものではなく、またこれを示すことによつて、右の友人等をして権利、義務または社会生活上の重要な事項に関する何らかの行為をさせようとしているものでもないから、文書の公共的信用まで害するものとは考えられず、文書偽造罪にいう「行使」には該当しない。

そうすると、被告人の本件自動車運転免許証偽造の行為には、「行使の目的」が認められないので、有印公文書偽造罪の構成要件に該当しないものといわなければならない。

従つて、本件公訴事実のうち有印公文書偽造の点については、犯罪の証明がないことになるので、刑事訴訟法三三六条により被告人に対し右の点につき無罪の言渡をする。

よつて主文のとおり判決する。

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